ServiceNowでFAQを集約し約1500件のナレッジを作成し、問い合わせの約8割を自己解決できる体制を整備した。
インシデントへの対応記録から、そのままナレッジが作成できるため、自己解決できるインシデント件数が増え、業務効率が向上した。
主要なシステムのうち、正常稼働には「青信号」、メンテナンス中や不具合には「赤信号」がともる仕組みを取り入れ、稼働状況を一覧できるようになった。
問い合わせ窓口をServiceNowに集約。サポートデスク業務の変革によって従業員と対応スタッフの負担を同時に軽減
プロセス変革の一環として、サポートデスク業務の合理化に取り組む
ビジネス環境の激変やテクノロジーの進化とともに、建設業を取り巻く環境も目まぐるしく変化しています。そうした中、総合建設大手の大林組は2021年1月1日に「MAKE BEYOND つくるを拓く」という新たなブランドビジョンを掲げました。
新ブランドビジョンには、これまで培ってきた「ものづくり」の技術と知見を、今という時代に合わせ、新たな地平へと発展させたい。既存の事業の枠にとらわれない成長を目指していきたいという、大林グループの未来への想いが込められています。
大林組は、建設業界でもいち早く米シリコンバレーにオープンイノベーションのための拠点を設け、また建機の自動操縦による無人工事や、現場におけるタブレット端末の活用を推進するなど、業務のデジタル化に積極的に取り組んできました。
その取り組みを加速させるべく、2020年4月1日にはデジタル推進室を設置。同年策定した「企業変革プログラム」に基づき、
①経営情報と生産情報の融合
②システムのスリム化
③自動化・省人化による働き方改革の徹底
④持続可能なデジタル人材の育成
というDXの4つの柱を掲げ、変革に挑んでいます。
「単純にシステムを導入するだけではなく、生産性を上げるためにプロセスそのものを変えていくことが大切です。仕事の進め方や文化そのものを変革していくことがDXの本来の目的であって、システムの導入はあくまでも手段にすぎません」と語るのは、大林組の堀内英行氏です。
大林組は2020年10月、プロセス変革の一環として、システムの不具合や操作方法などの問い合わせに対応するサポートデスク業務を合理化する新しい仕組みとして、ServiceNow のIT Service Managementを導入しました。
そのきっかけについて、「いち早く業務のデジタル化を推し進めてきた大林組では、社内で使用されるシステムの数も年々増え、社内外のユーザーからの問い合わせ件数も膨大になっていました。人員の限られたサポートデスクによる対応はパンク寸前だったのです」と説明するのは、サポートデスクを担当する大林グループの情報システム会社 オーク情報システムの五十嵐治世氏です。
当時、大林組で使用されていたシステム数は300以上に上り、サポートデスクに寄せられる問い合わせは月間約6000件。しかも、その約4分の3に当たる約4500件は電話によるものだったそうです。
「メールやWebフォームでも問い合わせができるようになっていたのですが、どうしてもすぐにかけやすい電話が中心になっていました。しかも、時間帯によってはアクセスが集中して、待たせてしまうことが大きな課題でした」(五十嵐氏)
さらに、問い合わせへの回答が保留となった場合、その後、どこまで確認作業が進んでいるのか把握できないことも大きな課題でした。問い合わせたユーザーだけでなく、受けたサポートデスク側も進捗状況の把握に時間がかかることも珍しくありませんでした。これらの問題を抜本的に解決するには、Webによる問い合わせを促して、その後のプロセスが完全に「見える化」する仕組みを整えるべきだと考えたのです。
ServiceNow導入前の課題
約8割の問い合わせを自己解決できる体制を構築
五十嵐氏は、「すでに日本の大手企業がServiceNow のIT Service Managementを導入してサポートデスク業務を改善した事例を紹介され、これなら当社の課題解決にも役立つはず、と心強く感じました」と振り返ります。
また、堀内氏は「ServiceNow のIT Service Managementなら、電話中心のサポートサービスを根底から変えられます」と語ります。
「このソリューションなら、ユーザーがネット検索をするように問い合わせ内容を専用ポータルから入力すると、その答えに近いと思われるFAQの回答がナレッジとして一覧表示され、求めている答えがヒットすればその場で自己解決できます」(堀内氏)
答えが得られなければ、専用ポータルのWebフォームに問い合わせ内容を入力して、オペレーターからの回答を待つことになります。しかし、問い合わせのための確認作業がどこまで進んでいるのかということも画面上で逐一確認できるので、待たされてストレスを感じることもありません。電話だと集中する時間帯にはつながりにくくなりますが、Webフォームによる問い合わせなら、いつでも受理されるのもメリットです。
さらに、IT Service Managementが非常に構築しやすいプラットフォームであることも選定の大きな決め手となりました。
「ゼロから開発することなく、あらかじめ用意されている機能の設定を変更する、いわゆるノーコード開発により理想の流れ(プロセス)を簡単に構築できるのが非常に便利だと感じました」(堀内氏)
大林組は、IT Service Managementを活用して、緊急を要する問い合わせ以外はWebフォームによる問い合わせにシフトすることにしました。FAQも集約し、300以上あるシステムのうち、とくに問い合わせの多い50ほどのシステムに絞って1500件ほどのナレッジを作成。これによって、問い合わせの約8割の自己解決を目標とする体制を整えました。
ServiceNowを評価したポイント
堀内 英行 氏
デジタル推進室 デジタル推進第二部 部長
業務効率向上と負担軽減の実現でサポートサービスの質が向上する
大林組はこの他、ユーザーが社内の主要なシステムの稼働状況を一覧できる仕組みも専用ポータルに取り入れました。正常に稼働しているシステムには「青信号」、メンテナンス中や不具合が生じているシステムには「赤信号」がともる仕組みです。
これによって、「赤信号」が表示されてシステムそのものが動いていないことが分かれば、「メンテナンス中かもしれない」ということで問い合わせの件数は減り、「青信号」であっても、「自分の操作方法に誤りがあるのかもしれない」ということで、まずはナレッジを確認するようになります。この二段構えによって、Webフォームによる問い合わせの件数は大きく減るだろうと考えたのです。
「効果が徐々に出始めている段階ですが、電話による問い合わせが減少傾向にあるのは確かです」と堀内氏は語ります。今後は、かつては月間約6000件の問い合わせのうち、4500件もあった電話による問い合わせを1000件前後にまで減らし、自己解決を約2000件、残りはWebフォームによる問い合わせを約3000件のバランスにしていきたいといいます。
また、オペレーター側のメリットとして、五十嵐氏は、「インシデント(ServiceNowにおける問い合わせ内容)への対応記録から、そのままナレッジが作成できること」を評価します。これによって自己解決できるインシデントが増えれば、ユーザーの業務効率が上がるだけでなく、問い合わせに対応するオペレーター側の負荷も軽減します。その分、他の問い合わせへの対応に費やす時間が増えるので、サポートサービスの質が向上するという好循環が生まれるわけです。五十嵐氏は、「IT Service Managementにはサポートデスク業務の報告書に必要な各種の分析レポートを自動作成する機能もあるので、今後はそれを活用しながらサービスの質をもっと高めていきたいですね」と語ります。
ServiceNow導入の効果
ServiceNowの特性を生かしてさらなる進化を目指す
大林組は、サポートデスク業務の他にも、ServiceNowのプラットフォームと連携して社内のITサービスを改善する計画を進めています。現在、動き出しているのが、ユーザーが使用するパソコンやタブレット端末、携帯電話などの調達申請手続きへの対応です。堀内氏は、「すでに社内で開発したシステムがありますが、機能追加・仕様変更などに時間を要していることからServiceNowへの移行を検討しています」と言います。
さらに、システムやサーバーの構成管理データベース(CMDB)や、ITプロジェクトの進捗状況の管理システムについても、ServiceNowにリプレースする計画です。
その理由について、堀内氏は「使い勝手の良さに加え、1つのプラットフォーム上ですべてのシステムのデータやプロセスがシームレスに連携することにメリットを感じているからです」と説明します。
例えば、サポートデスクではIT Service ManagementにCMDB内の情報を活用すれば、メンテナンス中のシステムや不具合が生じているシステムの情報を、そのままサポートデスクの専用ポータル上に「青信号」「赤信号」などで表示することができます。「現在は、システム稼働状況を手作業でCMDBに登録し、信号を表示させていますが、ServiceNowのCMDBに連携して自動表示させるように準備を進めています」(堀内氏)
堀内氏が、1つのプラットフォームですべてのプロセスが完結する仕組みの魅力を実感したのは、ServiceNowの本社がある米サンタクララのExecutive Briefing Centerに招待され、実際に体験する機会があったからだといいます。
「ServiceNowは、既存の複数プラットフォームを束ね、1つのプラットフォーム上で業務プロセスをエンド・トゥ・エンドで完結させる『Platform of Platforms』という考え方を提唱しています。当社のITサービスも、ゆくゆくはそうした統合性を持ったサービスを目指していきたいですね」と抱負を語ります。
その上で、「ヘルプデスクサービスの運用が始まったばかりですが、当面はその機能を十分に使いこなし、既存のプロセスを根本から変えていくことに力を注ぎます。ServiceNowには、これからもより効果的な使い方のアドバイスをお願いしたいですね」と堀内氏は期待しています。
Service Nowのソリューションによって、大林組の業務プロセスはさらに進化を遂げそうです。
サポートデスク業務の変革によって 従業員と対応スタッフの負担を同時に軽減